笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「すぐに助けに行くから! なんとか耐えて!」
 あたしは桃を拾ってくれた釣り人の青年を助けるため、服を着たまま川に飛び込んだ。 

 すいすいすいすいすいっとな。

 水泳が得意なあたしはクロールで泳いでいき、どんぶらこと流されている釣り人の青年の体を掴んで、なんとか岸にたどり着いた。

「二人とも大丈夫ですか!」
 岸から見ていたまなちゃんが、心配そうな表情で声を掛けてくれた。
「あたしはぜんぜん大丈夫だよ」
 全身ずぶ濡れになってしまったけど、体はピンピンしている。
「はあはあ、はあはあ。はあはあ、はあはあ。死ぬかと思いましたよ」
 息を荒げている釣り人の青年は、ずぶ濡れの体のまま砂利の上で仰向けになった。その手には、しっかりと桃が握られている。川で溺れそうになっても、桃を離さなかった釣り人の青年。見上げた根性だと思う。

「助けてくれて、どうもありがとうございました」
 釣り人の青年は、ゆっくりと立ち上がり、あたしに桃を手渡してくれた。桃太郎の桃より遥かに小さいけれど、なんとも美味しそうな桃ちゃん。
「どうもありがとう! 君はエロい! じゃなくて、君は偉い!」
 あたしは嬉しさのあまり、釣り人の青年の体に抱きついた。お互いに濡れ濡れなので、なんだか興奮する。
「いやあ、どう致しまして」
 あたしに抱きつかれた釣り人の青年は、ちょっと照れている様子。
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