笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「僕も釣りますね」
 ずっとまなちゃんの傍に寄り添っていた水樹くんも釣りを始めた。

 オーケストラの指揮者のように、釣竿と糸を自由自在に操っている水樹くん。

 第一印象は、ちょっと頼りない感じに見えたけど、今はとても男らしく見える。あたしにも寄り添ってほしい。

「水樹さん! またお魚が釣れましたよ!」
「僕も釣れました!」
 次から次へと魚を釣り上げているまなちゃんと水樹くん。あたしは釣りのセンスがないのだろうか。未だに一匹も釣れない。

「日が沈んできましたので、そろそろ岸に上がりましょうか」
 水樹くんの合図で、三人とも釣りをやめて岸に上がった。

 まなちゃんは、七匹もの魚を釣り上げて、水樹くんは、十匹もの魚を釣り上げたのに、あたしは結局、一匹も釣れなかった。

 しょんぼり。しょんぼり。だいぶしょんぼり。あたしも魚を釣り上げたい。ついでに水樹くんも釣り上げたい。
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