笑顔と猫とどんぶらこ～フーテンさきの歌紀行～

「いつの間にか真っ暗ですね。さきさんとまなさんは、今夜はどこに泊まるんですか？」
　いじけているあたしの気持ちを察してくれたのか、水樹くんがあたしに聞いてくれた。

「今夜は、ここにテントを張って泊まろうと思ってるんだ」
「そうですか。急に水量が増すことがありますので、気をつけてくださいね」
　心配そうな顔で言ってくれた水樹くんの教えは守らなければならない。

「うん。それじゃあ、川から離れたところにテントを張るね」
「僕も手伝います」
　あたしとまなちゃんと水樹くんは立ち上がり、焚き火に水を掛けて後片付けをして、川から十数メートルほど離れたところにテントを張った。

「これで大丈夫ですね。それでは、僕は家に帰ります。何かありましたら、すぐに駆けつけますので、僕の携帯に連絡してくださいね」
　優しい表情で言ってくれた水樹くんは、本当に良い人そう。まなちゃんは、そんな水樹くんの優しさに惹かれたのかもしれない。

「今日はありがとう。すごく楽しかったよ」
「水樹さん、いろいろとありがとうございました」
　あたしとまなちゃんは、お世話になった水樹くんに向かって頭を下げた。

「僕のほうこそ、本当にありがとうございました。まなさんとさきさんのおかげで、久しぶりに楽しい一日を過ごせました」
　水樹くんは、まなちゃんとあたしに向かって頭を下げた。

「あ、あの、あとでメールしてもいいですか？」
　まなちゃんが水樹くんに向かって言った。

「はい。いつでもメールしてください」
　恥ずかしそうに言った水樹くんは、釣り道具とクーラーボックスを持って川から離れていった。

　まなちゃんが寂しげな表情で水樹くんの後ろ姿を見つめている。あたしもちょっぴり寂しい。

「水樹さん！　またいつか逢えますよね！」
　まなちゃんが大きな声で叫んだ。

「はい！　またいつかお逢いしましょう！」
　大きな声で返事をした水樹くんは、まなちゃんとあたしに向かって手を振って、川の土手を上がっていった。