桜の花が咲くころに
「…………橘…くん…?」
あのシャンとした後ろ姿。
入学式の時に、ずっと見てた。
間違えるはずない。
私の小さな小さな呼び掛けは、どうやら橘くんの耳に届いたようだ。
ハッとした橘くんが振り向き、私とりっちゃんの姿を捉えると、フワリと柔らかい笑顔を浮かべた彼が口を開いた。
「桜…待ってたよ…。」
もう…彼のその笑顔を見たら、ダメ…だった。
桜の花びら
空の青
風の匂い
橘くんの声
海人の笑顔
訳もなく自然と…
私の瞳から涙が零れた…。