桜の花が咲くころに
話があるという橘くんに促され、中庭のベンチまで来たのだが、一度こぼれ落ちてしまった涙は、なかなか留まることを知らず、泣き止むまで随分時間が経ってしまった。
手に握りしめたミルクティーの缶を見つめながら、
「何で私がミルクティーが1番好きだって知ってるの?」
そう下を向きながら言う。
いや…私が聞きたいことは、それじゃない。
パッと顔を上げ、左隣に座る橘くんの方に身体を向けると、今日ずっと気になっていたことを尋ねた。
「私と橘くんって…昔会ったこと…あるの?」
もし私が昔、橘くんと会ったことがあるなら、私がミルクティーが1番好きってことを知っていても、おかしくないし、
私が何か忘れているなら、忘れた記憶を思い出そうとして、涙が流れたのかもしれない。
私の質問に、橘くんが一瞬目を細め、私の後ろに視線を移した。
桜を切り取ってフレームにおさめたように、彼の少し茶色がかった瞳には、満開の桜の花が写り込んでいた。
「……会ったことは…ない…と………思う。
きっと……今朝、はじめて会ったんだと…思う。」