桜の花が咲くころに
大好きな玉子焼きの味も分からないくらい、急いでお弁当を食べ終わり、音楽室に向かった。
音を立てないように音楽室のドアを開くと、教室の一番後ろに立つ。
海人は…グランドピアノの椅子に座り、両腕を鍵盤の蓋の上に組み敷き、顔を埋めている。
………寝てるのかな…?
ゆっくりと海人の元に向かって歩き、ピアノの横に立つと
「……海人…。」
小さな小さな声で呟いた。
「………。」
声が小さすぎたのか、海人は顔を埋めたまま身動きすらしない。
「海人。」
今度は先程よりも少し大きな声で海人に呼びかけると、小さく身じろぎ、ゆっくり頭を持ち上げた。
少し寝ぼけた様子の海人が、私の姿を捉えると、一気に眠気が飛んだ様子でガバッと私の左腕を掴んだ。
「桜!何でお前…髪切ってるんだよ!?」
「え……?私…何年もずっとこの長さだけど…。」
肩までのストレートの髪は、もう何年も変わっていなくて、今より短い時期はあったけれど、肩より下に伸ばした記憶は全く無い。
「あ……。」
そう言うと、私の腕を掴んだまま、海人は気まずそうに俯いた。