桜の花が咲くころに
「海人は誰と私を間違えてるの?」
海人から掴まれた左腕は、緩まることはなく、更に強い力が加わる。
「………。」
何も言わない海人を眺めていると、何故か心臓を直接掴まれたように胸が苦しくなる。
海人から【一目惚れした】と言われ、自分でも驚くほど舞い上がっていたのかもしれない。
「ねぇ海人。本当のこと教えて?
海人は別に好きな人が居るんでしょう?私は…その人の代わり…なんでしょう?」
「違う!」
私の方に顔を向けると、今までの海人のイメージとは真逆の荒々しい声をあげる。
「俺は…… 」
そう言うと、私の腕を掴んだまま、海人が椅子からゆっくり立ち上がると
「俺は確かに…ずっと好きな人が居たんだ。」
そう静かに答えた。