不器用な彼に恋した私。




「もう、考えすぎて駄目だ...。」

「じゃ、お先ー。」
「せいぜい、頑張れ。
顔腫れたフグめ。」

アレだけLINEで送っておきながらも、2人は定時上がり。
君らの脳はどうなってんだよ。
私はあれから、翔さんから貰ったショコリキサーを啜りながら考えていた。

借りを作ってしまったその罪をどう挽回するか。



借りは返すものだと、親に言われてきたからだ。


しかし考えすぎた挙句に脳はフリーズして、仕事がはかどらない。
定時で次々上がっていく同僚や先輩の背中を見ていたら、結局最後のひとりは私だった。
はかどらないな...。



給油室で眠気を抑えるべく、珈琲を飲んだ。
クリームパンで腹の虫を抑え、仕事にいざ取り掛かろうとした時。



まだ残っている人はいた。
...翔さんだ。


しかし、いつものバリバリお仕事男子の姿ではなく、ソファで、少し仮眠をとっている姿だった。
食事と言っても蕎麦で。


やっぱ、淡々としてるなーって思った。



ん?ひらめいた。
食生活が曖昧になってる翔さん。
そうだ!お弁当はどうだろうか!


叫びそうな口を塞ぎながら、ひざ掛けを仮眠をとっている翔さんに掛けて、デスクに戻った。


...帰る前に食材買って帰ろ。

そう心に留めた私は、驚くことか仕事がはかどった。
デスクの引き出しの中に忍ばせていたチョコレートを、つまみながら。




「んまいっ!」



「何が美味いんだ?」


ぎょっ!?
ぎょっとして後ろを振り返ったら、先程まで仮眠をとっていた翔さんの姿じゃありませんか。


ピョコっとヒヨコみたいに寝癖が立っているその姿は、んん~、なんとも言えないくらいのキュートさを放っていた。









「おい。」
「ッはいっ!井上藍です!」

声が裏返って、顔から火が出そうになった。












シーンとしたこの重い空気感。


「...アーモンドチョコレートです。
食べますか?」

「...食べるわ。」


いつ見てもキリッとした眉は柔らかくなって、チョコレートを摘んで頬張った翔さんは、短く『うま。』って呟いた。


「美味いですか?」
「ん、美味い。」



きゅーーん。
いや、きゅいーーんか?
とにかく、やっぱりふと見せるこの笑顔。

ハの字に下がった眉。
細く柔らかく微笑んだ目。


最高です。。



あまりにもその笑顔に見入ってしまったのか、『早く仕事してしまえ。』と言われてしまった。

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