食わずぎらいのそのあとに。
やって来た田代さんは、いつも通りだけどほんの少しだけ眉を寄せていた。心配してくれてるんだ、これは。
でも、踏み込まないようにしようとしてる。田代さんらしい、私との距離の取り方。
「低血圧? 貧血か」
「はい、すみません」
「俺の下にいた時にもあったな。あの後もある?」
「最近は全然。大丈夫です、落ち着けばなんてことないので、タクシーで帰ります」
「一人で帰って途中で倒れられても困るんだよね」
「じゃあ、真奈貸してください」
「貸せないな。2人同時に抜けられてもな」
なに、その意地悪は。どうしろって言うんだろう。
「私が同行しましょうか」
安岡さんが言い出して、勘弁してと思う。家まで着いて来られて、もしタケルと鉢合わせしたりしたら困る。
まあ忙しそうだし、来ないかな今日も。
結局私からは連絡してなくて、タケルが週末見に行く予定の映画チケット取ったよと連絡してきても、今日会えるか聞きそびれてた。
ドアがノックされたと同時に開き、タケルが入って来た。思わず目を見開く。
「家近いだろう。ついてってくれるってさ」
田代さんがなんでもないことのように言った。そうか、そういう建前か。
どういう経緯かよくわからないけれど、タケル経由で部長の田代さんにも私たちの付き合いは知られている。
「でも、仕事忙しいんじゃないかと」
「1日ぐらいなんとでもなる。無理すんなって言っただろ。最近顔色悪いって」
言葉はきついけど、心配そうな口調でタケルが言う。
ちょっと。会社だよ? そんな喋り方人前でしないでしょ。いつもは一応敬語で話してくるのに。
「何? ああ。安岡も知ってるから」
え? 何? なんで? びっくりして安岡さんを見あげると、無表情に目をそらされた。