食わずぎらいのそのあとに。

人事の仕事の一貫だと言って、早紀が平日昼間に来てくれた。

「書類はだいたい平内くんからもらいましたけど、一応香さんの自署も必要ってことで」

「ごめんね、わざわざ」

「もちろん『そこは空欄にしといて』って私が言ったんですよ? アリバイ作りです」

と笑って言ってくれる。確かにヒマなの、話し相手がいるのは本当に嬉しい。


「そういえば、高木くんとはその後どう?」

ひとしきり会社の話をした後、思い出して聞くと「え?高木さんですか?」と顔がほころんだ。いい感じらしい。

「フィドル教えてもらうことになりました。仕事と楽器にしか興味がないみたいなんですよね」

「フィドル? バイオリンじゃないんだ?」

「ケルト音楽では同じ楽器をフィドルって呼ぶって。弾き方は全然違いますけど、私もバイオリン弾きだから」

そうなんだ、同じ趣味っていいね。高木くんって興味のない無駄な会話とかしないイメージだから、楽器つながりって大事かもしれない。

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