食わずぎらいのそのあとに。

さて、これで一応正式に休職扱いになったわけだよね。田代部長にも一応ごあいさつしておこうか。

電話とちょっと迷ったけれど、やっぱりかしこまった文章でメールを送った。「ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いいたします」的なことを。




夕方、ふと気づくと返信が入っていた。

【生きてれば、周りに迷惑なんかいつもかけてるだろう。そんなことは気にしなくていい】

なにこれ。定型文ですよ、あれは。

【目の前にある大事なことに集中しろ。周りを信頼して、任せておけばいい。前にも言ったよな?】

こっちは真面目な文章送ってるのに、完全にしゃべり口調だ。まったく。

そう思いつつ、田代さんらしい命令口調だな、と楽しい気分で長い文面を下にスクロールしていく。

いくつか指示があった後の最後の文に、引き寄せられた。




香ちゃんは絶対に大丈夫だから、絶対戻ってこい。




ああ、これ、知ってる。

私が言ったんだって、前に言われた。

田代さんがご家庭のことで大変で、奥さんのために部を移って地味な仕事で踏ん張って、ほとんど見かけないのに、見るたびに憔悴していくようだった頃。

私がそう、言ったんだって。

「田代さんは絶対に大丈夫です。絶対に戻ってきてください」って。

よく、覚えてないんだけど。でもすごくわかると思った。私が言いそうなことだ。本当にそう思っていたから。

田代さんはそんなことでダメになる人じゃない。

いつだって私の頼もしい先輩で、賢くてできる男で、私が誰より惚れた人だったから。

絶対的に信じていた。必ずなんとかして、立ち直って戻ってくるって。いつものあのひょうひょうとした態度で。


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