食わずぎらいのそのあとに。


仕事を切り上げてお見舞いに来てくれているタケルと、最近毎日考えていた名前の相談をする。予定日にはまだ早いと油断していたけれど、早く産まれる可能性だってあるわけだから。



「男の子だったら響、と思ってたんだけど女の子だってわかったでしょ? だから月が満ちて9月に産まれたらみちる。8月に産まれたら葉月」

「いいね。どっちもかわいい」

「タケルは月のイメージだからね」

「月ってさ。微妙だよねそれ、男に対して」

「そう? 見上げると安心するの、いつも」

今も。うん、そうだった。頭で考えすぎてたの。

でも本当はいつだって私は安心なんだよ、タケルがいれば。



「タケル。私ね、お母さんになるの」

当たり前のことを改めて告げる私を見て、タケルは口の端を上げた。


「私はあまり器用じゃないから、いろんなことを両立できる自信がないけど、でも、今一番大事にしたいのはお母さんになることなの」

「うん」

「だから、タケルを信じる」

決意を込めて言い切ると、タケルも重々しく頷いた。でも目が笑ってる。

「何言ってるのか全然わかんないけど、わかった」

「わかった?」

「なんかすっきりしたんだろ? だったらいいよ。俺を、信じてていいよ」

ポンっと、頭に手を乗せてふわりと撫でられる。

「うん、ありがと」



もっと、話そうと思ってたことがたくさんある気がしたけれど、言葉にしたからって伝わるわけではないと思って。

私が本当に信頼していれば、きっと伝わる。

大丈夫、タケルは大丈夫。私も大丈夫。

私たちはきっと、だいじょうぶだ、これからまた何かあっても。



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