食わずぎらいのそのあとに。

ドアが開いて、タケルと田代さんが戻ってきた。

「タクシー呼んだ。裏に来るから。立てる?」

言いながらタケルが差し出してくれた手を取って、裏口に行く。

何?怒ってる? 

さっきまでの心配そうな空気が薄れて、イライラしてるのが手から伝わる気がした。




タクシーの中で、タケルは私を抱き寄せて寄りかからせ、髪をずっと撫でながらも、無言で何か考えているようだった。

田代さんに何か仕事のこと言われたのかな。





タケルは仕事の詳しい話をあまりしない。

当たり障りのない話はするんだけど、選んでるのがわかる。今は営業なのに開発部長の田代さんと何かやってる。でも何をしてるのかは、一切言わない。私も突っ込んで聞けてないけど。

総務の安岡さんと何で仲良くなってるのかも、わからない。



いいかげん、妊娠のこと言わなきゃいけないのは、わかってる。

でも、仕事が楽しそうなこんな時に。私には前ほど興味がなさそうなこんな時に、言いたくなくて。




結婚してってことだ、つまり。

付き合い始めて半年も経ってなくて、3月生まれのタケルはまだ25で、そんなこと考えてるはずもない。

私は4月には30でやっぱり結婚とか意識しちゃってるけど、そういう話題になったことないし。3つ差だって言うけど、実際にはもっと離れてるんだ私たちは。



だからって妊娠を諦める気持ちも、1人で産んで育てる勇気も何にもなくて。

とにかく疲れてて、何も考えたくないと逃げたまま、もう1ヶ月近い。



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