食わずぎらいのそのあとに。
妊娠しているのがばれているようだし、どこかで時間をもらおうと様子を見ていたら、田代さんのほうから手招きされた。
「今後の仕事の話したいから、C会議室」
それだけ言って、もう先に歩き出してしまう。慌てて席に戻り、書類やスケジュール帳をまとめて追いかけた。
私は半田チームリーダーの下にいるとはいえ、他のチームの仕事をいろいろやっているので、リーダー達を飛び越して部長に直接呼ばれていても不自然ではない。ただ、わざわざ会議室に呼ばれて話すことはほとんどない。
「今後の仕事って言ってもさ、香ちゃんに休む予定があるかってことだけど」
どうとでも取れる質問で聞かれる。でも隠すつもりもないし、実際休職となったら影響も出るからちゃんと話しておこう。
「妊娠、してます。7月頃には休まなくちゃなると思います。急にすみません。でも昨日みたいなことはもうないように気を付けます」
「わかった。身体きついときは早めに休んでいいからな。……平内とは話せた?」
プライベートに踏み込んでくるのは珍しくてよっぽど心配してくれてると感じながらも、どこまで話すか迷う。
「うーん。まだ、あんまり、ちゃんとは」
「あのな、これは上司としての発言じゃないけど。遠慮しないで言いたいこと言っといたほうがいいよ。ちょっとした我慢とか、勘違いとか、そういうの結構こじれるよ」
「実体験、ですよね?」
「まあね。離婚ギリギリだったって言ったよな」
田代さんは一人目が死産で、その後奥さんとの関係が悪くなって離婚寸前までいったと前に聞いた。でも、仕事を抑えてきちんと向き合って、去年無事またお子さんが生まれたんだ。
昔から仕事のできるいい男だったけど、そういうプライベートでの紆余曲折を経て、人に任せたり頼ったりもできる器の大きい部長になっている。
かっこいいなぁ、やっぱり。