食わずぎらいのそのあとに。
「言いたいこと言ったら、聞いてくれると思うんですよね。平内は、優しいから」
ぽろっとこぼしてから、偉そうなこと言ってるなと自分でも思って苦笑した。でも本当に優しいんだ。本音がよくわからないくらいに。
むしろ、私から言わなくても、責任を取ると言ってくれた。結婚してくれるってことだ。
「女癖悪いって話も聞くけどな。そういうの心配してるのか?」
「いえ。それは別に。遊び飽きたみたいですよ、もう」
どれだけ遊んでたのよって思うけど、それはまぁいいんだ別に。あの見た目で真面目だったら、そのほうが嘘くさい。
「俺が口出すことじゃないけどね。香ちゃんには幸せになってほしいから」
そう言われて、唐突に涙がこぼれた。
まずい。
慌てて頭を下げるふりで下を向いて、田代さんにあいさつする。
「詳しいこと決まったらまた相談させてください。いろいろご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
不自然じゃないといい、と願いながら荷物をまとめて、女子トイレに駆け込んでうずくまる。
幸せになってほしい、だって。
好きな人の子供を授かって、なんで私は今、幸せじゃないんだろう。
子供ができてから結婚した友達だっていて、偏見を持ってるわけじゃないのになんで苦しいんだろう。
責任取ってくれるって言ってくれたのに、なんでこんなに不安なんだろう。