食わずぎらいのそのあとに。
その後も田代さんが席に来て「昨日倒れたばかりだし、定時で上がって」と言ってくれたので、真奈に任せて帰らせてもらうことにした。
タケルにも携帯宛にメールを送っておく。当日予約しかできない医院だから、朝一で予約したら時間教えるねって。
明日は泣かずにちゃんと話さないと。
タケルからは返信が来なかった。なんとなく気になって深夜近くに電話した。もう家に帰ってるのか、まだ仕事してるのか。
鳴ってるのに、出ない。無視されてる?って一瞬思ってから、寝ちゃったのかなと思い直す。
考え方が暗いよね、最近の私。
諦めようかと思ったときに、つながった。
「ごめんね、寝てた?」
「香ちゃん? 俺、リュウ、わかる?」
「あれ、リュウくん? タケルどうかした?」
タケルの地元友達だ。何度かあったことがある。たぶん一番仲のいい親友。
「タケル珍しくつぶれちゃってさぁ。 やたら荒れてたよ」
荒れてたか。やっぱり、ショックだったよね。
予想してたのに、現実を突きつけられて身体が芯から冷えていく。
どこかで、タケルは驚いても受け入れてくれるかもと思ってたのかもしれない。
でも、私にはいつも優しくてかっこいいとこしか見せて来ないけど、違うんだよね。
電話口にリュウくんがいるのに、何も言葉が出て来なかった。
「香ちゃんて、タケルのこと好きだよね?」
向こうから聞かれる。
「うん……どうしたの。リュウくんも酔ってる?」
「いやー、俺は酔わせてもらえなかったよ。タケルが女に振られそうとか、10年ぶりぐらいに見たよね」
「振られる? 何の話?」
タケルが妊娠のこと話したわけじゃないのかな。何か勘違いされてそうだ。
「だよねぇ、なんの話だよなぁ。うちにつれて帰ろうと思ってたんだけど、香ちゃんとこ連れてこうか?」
「私はいいけど。タケルね、最近泊まりたがらないから、どうだろ。来たくないかもしれない」
「ああ、それね。あいつ何にも説明してないんでしょ? なんで本気になるとそうなっちゃうのかなぁ」
さっきから何か話がかみ合っていない。実はリュウくんも酔っぱらいなのかも。二人ともお酒が強いはずだけど。