食わずぎらいのそのあとに。
マンションのエントランスまで迎えに出た。タケルはリュウくんの肩に腕を回して支えられていて、思わず駆け寄る。
「タケル、大丈夫? 歩けるの?」
「香?」
驚いたように目を上げる。うちに来るって聞いてなかったのかな?
「部屋まで連れてく?」
リュウくんが聞くけど、「平気」とタケルは彼から腕を外した。ふらついてるから横から支えようとしたら、私にも「平気」と壁に手をつきながら言う。
タケルが人に弱みを見せないのはいつものことなのに、今はちょっと傷つく。
「平気じゃなさそうだけどな。とにかくちゃんと話せよ、お前。酔っ払い押し付けてごめんね、香ちゃん」
「ううん。ありがと、リュウくん」
田代さんに続きリュウくんにも背中を押された気持ち。ちゃんと話さなくちゃね、私たち。逃げてちゃダメなんだ。
リビングのソファに座ったタケルにお水を飲ませる。
「つぶれたって聞いたけど、起きてるね」
「寝ちゃっただけだよ。リュウが電話した?ごめんな急に」
まだ眠そうだけど、さっきよりだいぶはっきりして来たみたい。
「ごめんね」
隣に座ってタケルの頭を撫でた。いつもと逆だ。たまには年上ぶってみてもいいよね。
ごめんね、タケル。結婚する気なんか、なかったのにね。
「昨日ごめん。気づかないうえ、香に当たって。田代さんは気づいたのにな」
「田代さんは経験者だからわかるだけだよ、きっと」
そう言っても、下向いたまま。荒れてたって聞いたから、イライラしてるの覚悟してたのに、落ち込んでる?
リュウくんに何か言われたのかも。覚悟決めろとか?