食わずぎらいのそのあとに。
「夜っぽくなっちゃうのは大学生の時なの?」
ちらっと聞いてみたら、お母さんが明るく笑った。
「そういう話もちゃんとしてあるの? 結婚するならいろいろ話しとかないと、タケル」
「いろいろってなんだよ。別に夜バイトしてただけでなんもないだろ」
大学時代のタケルは、黒服のバイトをしてたと前に聞いた。女の子がいるお店にいる人だ。よくわからないけれど、用心棒的な意味合いもあるらしい。
その頃から遊んでて、会社入って暫くして落ち着いたようなことを聞いた気がする。でも今でも、どこか夜のイメージ。
「でも、よかった。タケルが最近うちに帰ってくるから別れちゃったのかと思ってたのよ」
向かいに座ったお母さんがニコニコと言ってくれるけれど、その話題はちょっと気まずい。横目で見たら、案の定タケルはちょっと顔をしかめていた。
「この子ここのところずっと女っ気ないし、若いうちに遊び過ぎてもう枯れたかとか、顔だけで乗り切れる時代は過ぎたかとか散々言われたたんだけど」
「誰にだよ」
「私の友達?」
「友達ね。一緒に住まないの、あの人と?」
「つかず離れずが落ち着くって言ってるでしょ。でもタケルも出てくなら、引越し考えないとね」
「なら美琴呼び戻せば」
「いい、いい。少し離れてたほうがいいんだって、あの子とも」
妹の美琴ちゃんがお母さんと喧嘩をして出て行ったあと、1人暮らしをしていたタケルが戻ってきたんだって。この辺りは交通の便がいいから、1人で暮らすには家賃が高いのかもしれない。