食わずぎらいのそのあとに。
しばらくしてトイレから戻ったタケルは、ダイニングにいる私を素通りした。ソファに座ってスマホを見ている。
やっぱり怒ってる? 離れたところからじっと観察していたら、視線には気づいていたらしくやがて目を上げて手招きされた。
隣に座ると「イライラしてごめん」とバツが悪そうに謝られる。そのまま腕を回してきておでこにキスする。
「怒って帰るのかと思った」
「いや。ちょっと外出て頭冷やそうかなとは思った」
「なんで怒ってるのか、全然わからない。タケルのためだと思ったんだよ?」
「……どこが?」
どこがって、だって。
はっきり聞きにくくて言いよどんだら、ため息をつかれる。
「一緒に住みたくないっていうのも、もし流産したら結婚したくないっていうのも、全部俺のため?」
「住みたくないって?」
「こないだ言ってただろ」
「なんの話?」
何言ってるのか本当にわからない。こないだ話したことを必死で思い出す。
うん、言ってない。タケルの腕から身体を離して向き合った。
「タケルがここに住むなら家賃はいらないって話? 一緒に住みたくないなんて言ってない」
断言したら、タケルは珍しく素で驚いた顔を見せた。きょとんとしている。
「あー、そういう意味か」
急に脱力したように言い、ソファに沈む。勘違いみたいだ、とりあえず怒りの気配が抜けてホッとする。