食わずぎらいのそのあとに。
結局ご飯を食べて行けと引き留められ、帰る頃には夜だった。挨拶だけと言っていたのに、そうは行かないのが実家ってものだ。
タケルは黙って運転してる。疲れちゃったかな、さすがに。
「今日かっこよかったよ。ありがとう」
「珍しいな、声以外で褒められるの」
そのまま、また何も言わない。何か思うところあったのかな。ほんと、そういうことは言わないし。
「でもやっぱり別になんともなかったね。歓迎されたでしょ?」
「緊張した。人生で一番ぐらいに緊張した」
「そういうもの?」
なんで? 大歓迎だったのにって思うけど、余計なことを言うとまた「わかってない」が始まるからここは黙っておこう。男同士の謎のやり取りなんだろう。
「俺さ、ああいうの、店でやってもらったことあるけど」
タケルが前を向いたまま、呟くように話し出した。
ああ、そうなんだ。夜のお店だったら花火立てちゃったり音楽かけちゃったり派手にやってくれるのかな。
「全然違うんだなって思った」
「米沢家なりに精いっぱいの演出なんだけどね、お店でやってくれるってもっと派手なの?」
「そういうことじゃなくってさ」
そう言って、でもなぜか黙ってしまう。えーと、なにかな。
「家庭的なのも、意外とよかった?」
「うん。そう」
私が横からじっと見ているのがわかっているのかいないのか、まっすぐ前を向いたまま運転を続ける。
そうか、これって照れてるんだ。おうちではお誕生会とかやらなかったのかな、子供の頃。それとも久しぶりだからってことかな。
話したくなさそうだから、まあいいかってことにする。いつでも話を聞く機会はあるでしょう、これから先の誕生日に。
「ありがとう」
少したってから、やっぱり前を向いたままタケルが言う。
「来年も一緒にお祝いしようね」
「次は香だけどね」
そうだった。4月で私は30才。
20代でやり残したことある? そんな話を前に友達とした。
どうかな。うまく行かないなりに、がんばったよ、仕事も恋も。
それで今、大事な人の赤ちゃんを身ごもってる。
うん。
思い描いたとおりじゃないかもしれないけど、やり残したことはないかも。