食わずぎらいのそのあとに。
田代さんからは、私の二つ下に当たる沢田をチームリーダーにすると話があった。
沢田は入社以来、地味な仕事を淡々とこなし、大きなプロジェクトが乱れないように整備し、人当たりもよく信頼されている。
でも、ちょっと意外な人選になるだろう。沢田の代でリーダーになっている人はまだいないし、何しろ管理系の地味な仕事を兼任しているせいか仕事で目立っている人ではないから。
「もし妊娠してなかったら、私でしたか?」
田代さんに率直に聞いてみた。
「迷ってたかもな。やりたかった?」
「うーん、私あまり周りが見えないので、リーダーには向いていないとは思ってました。でも沢田に先を越されたら傷つくかも」
「傷つくか。そこで悔しいって言えるといいんだけどな」
「悔しくは、ないんですよね。それに今は出世どころかまず仕事続けられるようにってところです」
「子供っていうのは授かりものだからさ、大事にしないとな」
「はい」
「上司として、できる限りのサポートはするから。沢田には俺から話す。妊娠のことはまだ伏せておくよな?」
「必要あれば伝えてください。噂好きですけど、口止めすればしゃべらないと思います」
「わかった。沢田入れる時に呼ぶからまた話そう」
先に退席しようとしたら、田代さんに後ろから声を掛けられた。
「香ちゃん、無理するなよ。子供できたからって辞められたら困るから、続けられるような形考えていこう」
あれ、辞めた方がいいかって思ってるのがばれてる。タケルが言ったのかもしれないけれど、たぶん単に勘がいいんだろう。
昔からいつも、そういうボスだ。
「みんなに頼らせてもらってます」
振り返って笑って答えて、会議室のドアを閉めた。
頑張りすぎるなと前にも言われたことを思い出した。
見えてないままで思いつめ気味の私は、頑張ってもあまり役に立たないらしい。
それは少し寂しいことだけど、確かに気楽にしてる方がうまく回るんだと実感してるから考え過ぎないようにしよう。
ちょっと心が軽くなった。やっぱり田代さんは、部下の扱いが上手。