食わずぎらいのそのあとに。
正式に一緒に暮らし始めた部屋で、これからのことをなんとなく話し合う。

「俺が気になるのは会社関係かな。いつ、誰に言うか」

タケルが言う通り、付き合ってることもごく一部の人にしか言ってない。

知っているのは、上司の田代さん、私の同期の武田、後輩の真奈、真奈の彼氏の三上。

それから総務の安岡さんか。私が倒れた時に知ってるって言われたよね。

「ねえ、安岡さん以外にも言ってる?」

「あと、営業企画の人で知ってる人もいる」

「なんで?」

「開発の奴らじゃないし、香と直接関わらなければいいかと思って。俺は隠すの嫌なんだよ、特に近い関係の人にはさ」

「安岡さんは?」

営業の人じゃないのに、なんで『近い関係』に入るのか気にはなる。

「あいつも今一緒に仕事してる。言っとくけどなんにもないよ?」

「興味ないですって言われた」

「だろ? 言いそうだよ」

「なんで仲良いの」

「別に良くもないけど。採用の仕事でいろいろ聞かれてる」

「前にも2人で飲んでたよね、そう言えば」

私と付き合う前だったけど、会社の女の子と2人で飲むなんて珍しいなって思った。それになんだろう、いつもとちょっと違う気がする。「あいつ」とか言わないよね、同期の子でも。

「なに、妬いてんの? かわいいな」

「タケル、はぐらかさないで」

「前のは、俺のばあちゃんを扶養家族にできるかって相談してて、他に言いたくなかったから2人で行っただけ。手を出す気とかもちろんなかったし、あれから飲んだこともないよ」

なるほど。タケルはプライベートをそんなに話さないところがあるから、わかる気はする。
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