食わずぎらいのそのあとに。

決めることリストアップしとこう、とタケルが言う。なんか仕事みたいじゃない?

「そんなもんでしょ、細かいことは」

そうかなあ。

「ねえ。気になってることがもう1つあるんだけど」

ちゃんと話すって決めたから、避けがちなこれも聞いておくことにした。

「ここに住むのは、抵抗ある?別のところに引っ越す?」


私名義のこの部屋より、別の部屋に二人で新しく住みたいのかなって思ったけど、タケルは意外そうに首をかしげた。

「抵抗? 狭いってこと?」

「ヒモみたいで嫌だって言ったでしょ」

「ああ、言った? 子供いたらここじゃ狭くなるから、引っ越しも考えてみる? それも条件洗い出して考えよう。書いといて」

やっぱり仕事っぽい。それに、何か話をすり替えられた気もするけど。

「この辺がいいな、タケルの地元も会社も近いしね」

「少し離れたほうが家賃は下がるけどな」

でもここを貸せばいいから、と言いそうになって、なんとなく思いとどまった。

「俺、無利子だけど奨学金返してるんだよね、まだ」

なんて言ったら正解なのかわからなくて、「そうなんだ」と当たり障りない相づちを返した。

空いてしまった間が怖くて「あのね、私ドレスは着たいけど披露宴は疲れそうだからいらないかなって思ってるんだけど」と話を変えた。

全部向き合って話し合うには、私たちはまだ遠い。

でも、これからずっと時間があるから。焦らずゆっくり話して行こう。

私のもう1つの部屋の収入のことを言わなかったのも、急がないでいいと思ったからだ。

前向きに、前向きに。考えすぎないでいいんだから。



< 57 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop