食わずぎらいのそのあとに。
思わずちょっと距離を取ったら、武田が寄ってきた。
「おめでとう」
「ありがと。聞いてたよね?」
「平内とこないだ飲んだ。お前からも報告あるかと思ってたけど」
「えー、二重に言ってもしかたないし。会社でそういう話したくないし」
「ふーん」
「ごめん。黙っててくれてありがと」
同期、先輩、後輩、いろいろ私にも寄ってくる。
「なんだよ、武田は知ってたのかよー」
「平内が気遣って、俺には付き合ってるのも教えてたんですよ」
「なによ、香ちゃん。平内くんとつきあってるなら隠しとくことなかったのに」
「そうですよ、香さん。オレ達ショックでかいですよ」
口々に文句を言われる。隠してたから仕方ない。
「でも、ほら、平内に悪いかなと思って」
「平内くんに?」
「私、変な噂いっぱいあったし。武田とか」
「お前な、『変な』とか言ってんじゃねえぞ」
武田が絡んでくる。
「ごめん。でも悪いでしょ」
「一応この場で釈明しとくと、こいつと俺、なんもないから、1回も。平内は知ってるけど」
「おい、お前ら。業務時間中だぞ。いつまでもグダグダやってないで解散」
田代さんが手を叩きながら、割り込んできた。
「はーい、すみません」
答えながら、散り散りにみんな自席に戻っていく。