食わずぎらいのそのあとに。
なんとなく気に入られてたんだろう、私が気づかないうちから。いつからでもいいや、今大事に思ってくれてるなら。


「私は、たぶん、うちまで送ってくれた時」

「結構あるよね、送ったこと。いつ?」

怪訝な顔で見見下ろされる。

そうだ、飲み会の後とか、2人でご飯を食べた後とか、いつも送ってくれるようになってた。

「外階段で、泣いてたとき」

「え? あれ? 田代さんにキレて出てったやつだろ?なんであれ?」

「何にもしゃべんなくても優しいなと思って。なんか、かっこいいなぁと」

「時々予想外すぎるよな。あれか。わかりにくい……」

嬉しくなさそう。まぁそうかもね。口が上手いタイプなのに、黙ってた時が一番優しいと思ったって失礼かも。



田代さんに仕事で成長してないって叱られた挙句、平内と付き合ってるのかと聞かれ、逆ギレしたんだ。

思い出しても恥ずかしい。色々あったのに仕事も頑張ってる上司に対してあの態度。

タケルは、その時ずっと黙ったまま家まで送ってくれた。本当にお互い一言も話さなくて、途中からはドキドキしてたのを覚えてる。

何も話したくなくて、でも一人でいたくもない。そういうゴチャゴチャした気持ちを全部わかってるみたいにそばにいてくれた。


いつもそうだった。大事な時はあまり話さず、ただそこにいてくれる。

月みたいだと思ったんだ。タケルは、夜空を見上げるとついてきてくれる満月みたい。
< 75 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop