食わずぎらいのそのあとに。

安岡さん改め早紀は、テキパキと事前アンケートの結果やそれぞれから聞きたい話などを説明してくれた。

まだ検討中なので内緒ですよと言いながら、取り入れようとしている採用や育成の方向性をあげて、その可否を探るのが目的だと言う。

「どうですか? 香さんからのご意見も参考にさせていただきますけど」

「賢いんだね、早紀。田代さんに気に入られてるだけあるね」

「そういう感想ですか? 田代部長にはうまく使っていただいて感謝してますよ。張り切って転職してきたのに干され気味だったのを救ってもらいました」

「そうなの? さすが田代さん」

やっぱり人を使うのが上手いんだよね。この子干してるなんてもったいないもんね。

感心していたら、早紀が可笑しそうに笑った。

「これが平内くんを動かすんですね、納得」

「なに?」

「田代さんが『平内が面白くて香ちゃんからかうのやめられないんだよなぁ』って。上司としてはともかく人間としては尊敬してないですよ、私」

笑いながらも言うことははっきりしてる。面白い子だ。

「うーん、田代さんはそういう人だよね。平内を気に入ってるみたい。似た者同士なんじゃない?」

「とにかく。恋バナじゃなくて仕事です。新婚なのはわかりますけど、切り替えましょう」

えー、恋バナに振ったの私?

でも今日はいきなり近づけた感じでかなり手応えあり。今度ランチも誘っちゃおう、と机の下で小さくガッツポーズをした。

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