食わずぎらいのそのあとに。


「香さんは営業も経験されてますけど、どうですか?」

早紀に振られるけれど、私の異動は失敗例だ。

「私は営業は向いてなかったから、その後むしろ苦労したよ。どっちつかずになって」

「え? そうですか? 営業と開発のつなぎ役になって活躍してますよね。ほんとだったらチームリーダーになってたの香さんのはずだったって」

沙耶ちゃんが驚いたように言う。



「そんなことないよ。沢田が適任だと思う。沙耶ちゃんは同期のまとめ役もやってるし、各部をつないでいく人になっていくんじゃないのって私は思ってるけど? 人集めて勉強会やったりしてみたら?」

「勉強会?」

「うん、前に有志でやってたの。仕切ってた人がいなくなって自然消滅したけど。確かにそういうリーダー格が転職しちゃうんだよね、物足りなくなるのか」

「平内くんたちもやってますよね」と早紀も言う。

「リーダークラスでね。なんでか入ってるみたいだよね、平内も」

タケルはなんの役職でもないのに、社内のいろいろに呼ばれているらしい。できる男なんだよ、ほんと。

自分の同じ年頃のことを考えると、ほんとすごいなぁって。これからどんどん伸びて行く人。彼こそ、こんなのんびりした会社じゃもったいないかも。




「そういうの呼びかけるって敷居高いです、私には」

まだ驚いたままの様子の沙耶ちゃんは、ちょっと及び腰だ。

「そう? 沙耶ちゃんなら集まるよ、きっと」

「人事課で何かできるかも考えてみますね」

私たちの言葉に、少し考えるようなそぶりをした後、沙耶ちゃんは少し明るい顔になった。

「焦ってたかも、しれないですね私。香さんみたいにならなきゃと思いすぎてたかも」

私みたいに?? キャリアも微妙で結婚も妊娠も何も計画性のない私みたいに?

真奈が言うならともかく、沙耶ちゃんにそんなこと言われるとは、かなり予想外。

< 82 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop