食わずぎらいのそのあとに。
「香、それとも会社辞めるのも考えてるとか?」
「ずっとやってた仕事、後輩たちでもう十分できるなぁって思って。休職した後、どうするのかなぁって思っちゃうんだよね」
「香らしくないよ、そういうの。香はちょっと偉そうにしてるぐらいがいいのに」
首を傾げる私に、重ねてリサが力説する。
「いつだってなんだってできそうだよ、香なら。香は絶対、大丈夫」
あれ?なんだっけ。何か思い出すような。大丈夫。なのかな。
「体調悪そうだもんね、それで弱気になってるのかもしれないよ? 」
うん。つわりはないんだけどね、もう。仕事も楽にしてもらってるのに、ずっと疲れてる。
こんなことじゃダメだって思うんだけどね。身体はなかなかいうことを聞いてくれない。
「産まれたらもっと大変とも言わない? リサはそうは見えないけどね」
「人によるんじゃない? うちのママは妊娠中が一番つらかったって」
確かに弱気な私をリサが励ましてくれる。
「案ずるより産むが易し、だよ」
日常会話に本気でことわざを挟み込んでくるのが帰国子女っぽい。にこやかなリサを見て、ぼんやりした頭でそう思った。