食わずぎらいのそのあとに。
タケルと二人で控室に座っていたら、コンコンっとノックがあった。そろそろ時間なのかなと振り返ると、顔を出したのはメガネの高木くんだ。
「よ、結婚おめでとう」
「ありがとう。どうしたの?」
「設置できたら教えてって言ってたのがどの人かわかんないんだよね」
ああ、そうだった。高木くんは『女の子ってほとんど同じに見える』とか言っちゃう人だった。
「それって安岡だよね。俺、案内しますよ」
タケルが立ち上がった。高木くんの変人ぶりも説明してあるから、わかってくれたらしい。
「すいません、新郎に。あれ?」
高木くんがなぜかタケルをまじまじと見た。
「居酒屋にいたイケメンくん、か」
「覚えてるの?」
タケルが高木くんを覚えていたのも驚いたけど、高木くんは人覚えるの苦手でしょう!
「え?そりゃ、まあ。あんとき皆のへこみようがすごかったから」
「高木さんは顔覚えられない人だって、俺も香に聞いてましたけど」
「ああ。女の子のほうが難しい。化粧とかしてるし」
そうなの? 男の区別はつくの?
「それはちょっと、わかります」
タケルは笑いながら、高木くんを案内していった。わかるの? 何なのそれ。
少ししてからまたノックが合って、今度は早紀が入ってきた。
「すみません、香さん。高木さん見かけませんでした?」
「平内と出て行ったけど、すれ違わなかった?」
「ほんとですか? 別の階段通ったかな。行ってみます」
慌てて出て行こうとしてから、早紀は振り返った。
「すっごくきれいです、香さん。それから、先にお礼言っておきますね。高木さん、狙ってみます」
えええ? 反応する暇もなく、また控室で1人になる。高木くん、顔も覚えていないみたいだったけど、大丈夫かな。
世の中は本当にどう転ぶかわからない。