食わずぎらいのそのあとに。


なんだかほほえましいムードになった会場で、リュウくんは私にマイクを向けてくる。

「あんなかっこよくてイクメンの健太くんをふって、タケルを選んだ理由は?」

「うーん。健太は優しいですけど、タケルはもっと優しいので」

「ほぉ、言うね。どんなところが?」

どんなところって、なんか恥ずかしいな、こういうの。

「えーと、私が1人でいたくない時にいつもいてくれて、全然喋らなくても大丈夫で。あの、いてくれるだけで嬉しいっていうか」



何かしーんとしてしまって焦る。変なこと言ってないよね?

「それに私、昔から貧血があったり、子供はできにくいかもって言われたことがあって、だから」

焦って付け足そうとした言葉は、裏目に出てますます調子がおかしくなる。

「あれ、ごめんなさい」

なぜか涙がにじんで、言葉を失った。



タケルを見たら、いつも通り、なにも言わないで見ててくれて、それで安心して息を吸い込んだ。

「願うのも怖かったことを、叶えてくれて受け止めてくれて、そういうのが全部……」

でも結局胸がいっぱいでそれ以上言えなかった。

「ありがとうございました!」

気を利かせてくれた沢田が挨拶をして、そこでまたたくさんの拍手をもらった。温かい拍手ってよく言うけれど、本当にそういう暖かい音があるんだ。

タケルはそっと頭を撫でて、それからずっとテーブルの下で手をつないでいてくれた。





女友達が入れ替わりやってきて「お腹触らせて」「きっと可愛い子が産まれるね」ってたくさん話しかけてくれて。

皆に待ち望まれて生まれてくる幸せな子だって思った。

性別は?名前は?ってたくさん聞かれたけれど、まだ名前は考えているところ。

タケルとリサから「カタカナとか奇をてらった名前はだめ」と強く言われている。二人とも目立つ名前で苦労しているらしい。

そのくせタケルは「香に任せる」と言って考えてくれないし。

「父親頑張るんじゃなかったの!」と文句を言ったら「二人目の時は俺が考えるよ」だって。ずるい。


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