食わずぎらいのそのあとに。




あんな素敵な会の後に、タケルにわざわざ聞く気にはなれなくて、そのまま1週間。

きっと私に気を遣わせないために黙っているんだって、わかってる。優しさなんだって、わかってる。

でも。だけど。



「俺、なんかした?」

土曜の夜、タケルに聞かれた。今週モヤモヤしてたのがわかってたみたい。

「なんだと思う?」

意地悪く聞いてみても、もちろんタケルはわかるはずもない。

「転職の話があったの? 」

結局聞くとタケルは「ああ」と小さく頷いた後、「でも行くつもりないし」と説明する気もなさそう。

逃げるようなその様子に、カチンときた。



「リュウくんが言ってた。もったいなかったって。なんで私には隠してたの?」

「隠してたつもりないけど」

嫌そうに言った後、それでも観念したように説明を始める。

「大学の先輩の会社、調子よくて拡大しててさ、来ないかって声かけてもらったんだよ。ちょっとは考えたけど、今じゃないと思ったから」

そこは今勢いがつき始めたようなベンチャーで、きっと入るなら今なんだ。『あんなとこと繋がりあるとか、平内ってなんか違うんだよなぁ』と武田が羨ましそうに言ってたのを覚えている。

「家族なのに、パートナーなのに、なんで私に話してくれないの?」

「行くつもりないのに言っても仕方ないよね」

「なんで?」

「だから今じゃないと思ったんだって」

堂々巡りになる。言葉が届いている感じがしない。どうして一人で決めちゃったの? 私が気にすると思ったからでしょ?

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