食わずぎらいのそのあとに。
朝、シャワーの水音が微かに聞こえた気がして目が覚めた。起きてソファで待っていたら、タケルが頭を拭きながらやってきて足を止めた。
「おかえりなさい。リュウくんのところ?」
「うん……リュウにも怒られた。大事にするとか言っといて、心配させてどうするんだよな。ごめん」
タオルをそのまま首にかけてどさっと隣に腰を下ろすと、タケルが話し始めた。
「今の仕事、面白いんだよ。俺たぶん、ずっと開発側の人間じゃないし、営業とか人事とかいろいろ見せてもらえる規模で。一番下で結構やりたいようにやらせてもらって、面白いんだ」
「うん」
「俺にとって今一番大事なのは、香と子どもと家族になること。俺の親父ってダメな奴でさ、やっぱり血はひいてるわけだし、相当びびってんだよ。仕事の方が多分楽だから、たぶん絶対逃げそうだから、逃げないように頑張ってるところ」
ああ、そうか。タケルはそうやって頑張ってくれてるんだ。そんなの頑張らなくっていいのに。って言っても無駄だよね。それはタケル自身の問題だ。
「それに仕事は俺、香が思ってるよりできるよ。後輩だってなめてんだろうけどさ、そこまで要領悪くないつもりだし、ちゃんと稼いでくるよ」
「うん、ありがと」
嬉しいんだけど。そうやって言ってくれるの嬉しいんだけど、でも「稼いでくる」っていうのはさ、やっぱり何か気にしてるってことなのかな。
言うなら、今だよね。