食わずぎらいのそのあとに。

「でもね、言ってないことがあるの」

ちょっと眉を上げて、タケルは横目で私を見る。

「……私、部屋もう1つ持ってる」

変に低い声が出たと思った。タケルの本音が見えちゃったら嫌だと思いつつ、目をそらさないように言った。



でもタケルは、くくっと面白そうに笑って「なんだよ、その暗い告白」と笑い飛ばした。

「知ってる。親父さんに聞いた。香は言いたくなさそうだから聞かなかったけど」

「知ってたの? 知ってて黙ってたの?」

「そういう話になると挙動不審になるよね。貧乏生活したことないだろうから、俺とか相手でビビってんだろうなぁとは思ってるけど。何? 言うと働かなくなるとか思った? 隠しといて貯めとこうとか?」




頭に来て、でもほっともして、タケルの胸をどんどんと叩いた。

「なんで知ってるって言わないの! すごく悩んでたのに」

「え? ごめん。なんで?」

笑いながらタケルに手首をつかまれる。つかむな、叩かせろ! 



「なんで?」覗き込むように言ってくる。ずるい、かわいい。

「だって……プライドが傷つくとかあるのかと思って」

「ないって。俺そんなプライド持ってないよ、俺のうちどんなかバレてるじゃん」

そうだけど、そうだけど、でも前にもヒモとか嫌だとか言ったでしょ?



「いや、悪いなと思ってるけどさ、俺は奨学金返済も終わってないのになぁとか。金があるに越したことないし、香に苦労させる気ないよ?」

「タケルだって、私の気持ちわかってないよ」

「そうかもね。ごめん。でも、なんでプライド? 俺は買ってやれないなとか?」

あっさりと謝られる。そして本当によくわからないらしい。



ずるいよ、私はすごく考えたのに。


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