ビルに願いを。
うちでお散歩スタイルに着替えてから出かけることにした。丈にはリビングでお茶を飲んでいてもらう。
気分転換に最近片付けや掃除を頑張っていてよかった。
「これが圭ちゃん?」
壁にいくつか飾られた写真を丈が見ている。
それは私と2人で山登りした時の写真。拾われてしばらくは、私が余計なことを考えられないようにとやたらと外に連れ出してくれてた。
荒んだところが残っている、幼い私。でも笑顔が戻って来た頃の。
「こっちは、杏じゃないよな?」
次に見ているのは、もっと昔の家族写真だ。
「圭ちゃんの亡くなったお姉さん。似てる? 親戚なの。あの指輪もお姉さんの形見」
「麻里が彼氏だって言ってたのはなんなんだよ」
「彼氏がいるのが採用の決め手のひとつだったって言われたから、本当のこと言えなくって……」
でもそんなの気にせずキスして来たくせに。
並んで写真を見る横顔を見上げると「無理やり奪ったら杏がまた傷つくのかって結構悩んだ」と前を見たまま言われた。
「ケイティの話だったけど杏のことだろって後で気づいたし。あの電話」
「うん。でもケイティは彼女じゃないでしょ? 圭ちゃんと私も家族」
横目でチラリとまたあの色気のある表情をして「早く言えよ」と文句を言う。
そっちこそ、ケイティは犬だって早く言ってよ。見返したら、そのままの顔で近づいておでこにそっとキスされた。
「それで連絡くれなかったの? 嫌われたのかと思った」
「なんで?」
「圭ちゃんのいるホテルに泊まったから」
「もともとそっちと付き合ってると思ってるのに、なんでそこで嫌うんだよ?」
「だって、両方となんておかしいでしょ。ちなみに別の部屋だったけど」
丈はなぜか、堪えきれなかったという風にふきだして笑った。なに、今のどこが笑うところ?
「これでビッチか。どうでもいいけどね、今さら」
まだ笑いながら、小さく呟く。細かいことにこだわらない。そういうところも好き。