ビルに願いを。


社長! よくないです!

急な出来事に口が開いてしまった私は、助けを求めて麻里子さんを見た。

しかたないわね、と苦笑いを返される。嘘でしょ! そんな愛人契約のために入社したんじゃないのに!

「2人とも冗談はそこまで。杏ちゃんはエンジニアではありません。身代わりにしたいなんてセクハラです。この話はおしまい。行きましょ、杏ちゃん」

静かに、でもきっぱりと言い切って、麻里子さんは私をスタッフ席に戻るように促してくれた。

残る2人はそのまま日本語で何か言い合い始めている。さすがバイリンガル。どちらの言葉でもケンカもできる。



私のことはとりあえず冗談だったらしい。だよね、よかった!

「本気にしちゃいそうでした。変わった人ですね、丈さん」

「ジョーは本気だったわね。本当に天才だかなんだか知らないけど、わがままなのよ」


苛立たし気に麻里さんは言う。エンジニアはお客様っていうから、結構普通にストレスはたまるんだろう。わかる気がする。


「ケイティってアメリカにいる彼女ですよね?」

「そうらしいわね。病気の家族もいるみたいだし、帰りたい気持ちはわかるんだけどね。元はあんな感じじゃなくてハッカソンを率いたりしてたんだって社長は言うんだけど、3ヶ月いてずっとこうよ」

彼女と家族を置いてきてるのかぁ。帰りたいって気持ちに同情はする。

でも半ば本気で身代わりにされそうだし、気をつけよう。天才さんには近づかない。





今日聞いた新しい言葉。コードレビュー、バックエンド、コーディング、ハッカソン。

さっぱりわからない。

スタッフには関係ないことが多いとは言え、さすがに勉強しないとね。頑張るぞ!



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