ビルに願いを。
翌日も、ちょっと空いた時間にまた社内でコーヒーを飲んでいた。タダでこのクオリティ。ほんとこれだけのために毎日働けそう。
席に戻る途中、避けようと思っていた丈さんに偶然出くわす。
「お疲れ様です」
一応声をかけたら、また無表情で見られた。あれ、「ハイ!」とかの方がいいかな。と思ったときにはもうすれ違ってる。
え? なに? 無視?
嫌われたかな。私、何かした?
振り返ったら、なぜか向こうも振り返っていて向き合う形になり、丈さんは驚いたような顔をしてまた行ってしまった。
なんだろう、今の。
ああ、ケイティに似てるっていう姿を見てたのかも。
自席に戻ったところでふとそう気づいた。なんだか、微妙な気持ち。1人でドキッとしてバカみたい。
なんとなくそのままぼんやりしていたらしく、27階のアッパーフロア総合受付に麻里子さんから呼び出されたときは少し時間が経っていた。
部外者はまず総合受付を通らないと各会社には案内されない仕組みになっている。
なんだろう、お客様にお茶出しとか?と急いで受付脇の商談コーナーに向かうと、麻里子さんの隣にいた上品な雰囲気の白人女性が立ち上がって迎えてくれた。
「こんにちは。あなたがアンね? 思った通りのキュートな人ね!」
と早口の英語で呼びかけられる。あ!この声!
「メアリさんですか? お荷物届きました?」
「あなたのおかげで素敵な靴が買えたのよ。お礼が言いたくてね。会えてよかったわ」
よかった! わざわざ来てもらうなんて申し訳ないけど、このビル内に泊まっているならちょっと訪ねてみたくなる気持ちもわかる。
お土産にお菓子を頂き、ご馳走させて欲しいと熱心に誘われる。断るのも失礼そうなので、後日ホテルのレストランにお招き頂くことになった。
なんてセレブな展開! これがイケメン男子だったら恋が芽生えそう!
でも麻里子さんの笑顔が固かったのが気になるな。フェニックス社員としてはこの程度のことはお断りしないといけなかったのかな。調子に乗り過ぎた?