ビルに願いを。
会社が終わってから向かったフレンチレストランでパリッとした白いテーブルクロスの前に座り、私は就職面接なんて目じゃないほど緊張していた。
目の前に並んだたくさんのナイフとフォークを、どう使っていいのかわからない。
こんな時せめて家族で外食する習慣があったらよかったと思うけれど、うちのママは手料理を食べさせることに生きがいを感じている人だった。
あの時の約束通り、メアリさんはホテルラウンジで待ち合わせて、ホテル内のレストランに連れて来てくれている。
「ビル最上階の高級レストランじゃなくてごめんね」と冗談めかして言ってくれたけれど、うまく返事を返すこともできなかった。
これほど高級なホテルに足を踏み入れるのももちろん初めてで、何をどうしたらいいのか挙動不審になっている私に、「リラックスして。マナーよりなにより、こういうときは楽しむことよ」とウインクしてくれる。
なおかつテーブルマナーも教えてくれながら、美しい所作で食事をする。
うん、メアリさんが男の人だったらほんと好きになっちゃうだろう、たぶん。
数日間の旅行かと思ったら、お仕事で1か月ホテルに滞在しているんだって。すごい。そして「もちろん会社の経費よ、いいでしょ」となんでもないように笑う。
彼女もアッパーフロアの人だった。つまりセキュリティ上そんなに問題だったわけではなく、私は社長にはめられたようだ。
それにしても本当に違う世界にいるみたい、最近の私は。