ビルに願いを。
メアリさんの優しさと、初老のウエイターさんの丁寧な扱いで、だんだんリラックス出来てくる。そして一度話し始めると彼女は聞き上手で、次々と話が弾みはじめた。
「というわけで、叱られてしまって別の部署に置物として置かれているんです」
メアリさん事件の顛末を差し障りのない範囲で話すと、大いに笑ってくれた。
「アンみたいなきれいな置物なら、私も置いておきたいけれど。でもあなたは窓辺に飾られているような存在ではないでしょう? いつも誰かをつい助けてしまう、そうじゃない?」
「そんなことないです。あの時はたまたま、手が空いてて……でも私の大好きな人がそういう人なんです。私のことも拾って救ってくれた。だから、あんな風になれたらって憧れてます」
「その指輪の彼?」
右手の薬指にはめられた指輪を見ながら、メアリさんが小首を傾げる。
「はい。でもボーイフレンドではないんですけど。本当に好きな人ができるまで、他の誰とも寝ないようにっていうお守りとしてくれたんです」
メアリさんが目を丸くして手を止めた。
あれ、もう少し直接的でない言い方があったかな。仕事英語じゃないと語彙が足りないね、私。
「そう。あなたのことを大切に思ってくれてるのね」
でも話はうまく伝わったみたい。そう、この指輪をくれた圭ちゃんは年の離れたはとこ。亡くなったお姉ちゃんと私がそっくりなんだって。
そう言えば、誰かに似てるって言われるのはじめてじゃないんだな。随分趣が違うけれど。