ビルに願いを。
私がチームメイトの彼女に似てると言われて困っている話をすると、メアリさんは親身になって聞いてくれた。
「私はバカでつまらないのはわかるんですけど、本当に私自身には興味なさそうにされると少し傷つきます」
「あら、あなた賢いし面白いわよ。彼の前でも、そういうところをどんどん見せていけばいいの。誰にも似てないあなた自身の面白さを」
「私自身の面白さですか」
面白くもないからなぁ、私。
「なんでもいいわ、やりたいことをやるの。好きなこと。そうすればあなたらしさが自然と出る。私も若い頃は自信なんてなかったけど、そうやってここまできたのよ」
素敵だなあ、メアリさん。私もいつかこんな風に若い人にアドバイスできる女性になれるだろうか。
いや、誰かみたいになるんじゃなくて、自分のやりたいことをやるのか。やりたいこと? そんなの考えたこともなかった。
思いつかないまま、楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていく。
最初は震えそうだった指先も落ち着き、繊細に飾られたチョコレートケーキを食べ濃いめのコーヒーを飲む頃には、すっかり寛いだ気分になっていた。
「本当にいいわね、若いって」
メアリさんか嬉しそうに微笑む。若さだけがいつも褒められること。それもやがてなくなることを知っている。
「次にこういうレストランに来た時には、きっと最初から戸惑わず楽しめるでしょう? それは成長だし嬉しいことだけれど、この年になるとそういう初めての戸惑いは滅多になくて憧れるのよ」
「でも、戸惑わない方が楽しめますよね?」
「それでも憧れるのよ。戸惑いながら世界につながっていく勇気ある若者たちに」
そういうものなのかな。メアリさんの言い方は単に『若い頃はよかった』と嘆いている人たちとは違うんだろう。でも私にはわからない。
戸惑いながら勢いでやっちゃって、取り返しがつかなくなることもあるでしょう?
失敗する前にちゃんと世界を理解して、間違わずに進んでいけたらいいのに。
いつだってそう思ってる。