ビルに願いを。
家に帰ると、ものすごく珍しく圭ちゃんから電話がかかって来た。海外で仕事をしている間はほぼ音信不通で、ほんの時たま電話がかかってくる。
SNSのアカウントを乗っ取られて危ない目にあったとかで、文字でのやり取りは最小限にしたいんだって。
『フェニックス。そりゃまたすごいところにお勤めで』
「やっぱり知ってる? 日本ではそんなに有名でもなさそうだったけど」
『まあアメリカ発だからな。今急激に伸びてるよ、日本でも広がり始めたら一気にくるんじゃないか。で、杏はどんなことやってんだ』
「下働き。詳しくは言えないの。セキュリティに気を使ってるの」
『おいおい、俺たち家族だろう』
「でも圭ちゃんてジャーナリストでしょう。知らないうちに内部情報聴きだすとかうまいんでしょ」
『まぁ確かに俺もフェニックスの内情には興味なくはないか。大人になったな、杏』
褒められて、ふふんと笑う。ああやっぱり圭ちゃんと話すとほっとする。
この人はK. Setoという少し名の知れた国際ジャーナリストなのだ。私にとっては懐の深い兄貴分だけど。
『ジョー・サノが最近立ち上がった東京オフィスに飛ばされたとかいう噂はあるな。いるのか?』
「ノーコメントです」
早速の聞き込みをお断りする。やっぱり聞きたいんでしょ。
『いるんだな。メディア嫌いであまり表に出ないんだけど、天才って触れ込みとルックスの良さで注目集めててさ、生い立ちとか暴露記事が出たり一時期騒がれてたんだよ。女好きみたいだから気をつけろよ』
「はーい」
『まあ、うまく行けば玉の輿だ。フェニックスでも周りの会社でも、指輪はずしてくれるような男そろそろ見つけろよ』
「はいはい、わかりました。さっさと出て行きますよ」
『いや、待て。そういう意味じゃない。早まるな。大事にしてくれそうな男を見極めろ。特にジョー・サノには近づくなよ。そういうセレブは人生を狂わせる』
「わかってます。とにかくたまには帰って来てよ」