ビルに願いを。

「英単語や言い回しをたくさん覚えて、スパッと言いたいことが言える感じかなぁ」

わからないなりに理解しようとして、思わず口に出る。

「そうか、英語は独学なんだった?」

「はい。仕事で必要だったので必死で」

どんな勉強したのといくつか質問された。ついでなのか、コーディングについてはどんな風に理解してるのかも聞かれるままに答えた。

「ふーん。やってみてもいいか」

何かまた思いついてしまった様子だ。嫌だ、腹黒そう。なんだろう。

「丈はね、大手資本なんか突っぱねて仲間内だけで会社をやりたがってた。日本に送り込まれたのもあいつの意志じゃない」

混乱しているうちに、突然丈さんの話に変わった。

「裏切られた気分でやる気がなくなっているけど、フェニックスから完全に手を引くこともできない。どっちつかずで動けなくなってる。
でも杏ちゃんが揺さぶってくれるかもしれないな」

こちらもよくわからない話だ。揺さぶるってどうやって? さっきの英語の話は関係ない?

「じゃあちょっと、丈のところに行こうか」

社長がドアを開けて私が出るのを待っていてくれる。さすが、アメリカナイズされていらっしゃる。

丈さんもこういうレディファーストなところがあるのかな。そういえばエレベーターのドアは開けていてくれたね。


思い出しながら、歩き出した社長を小走りで追いかける。何が何だかわからないが、これ以上変なことにならないといい。

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