ビルに願いを。


怒られるかと首をすくめたけど、丈さんは気にしないでまたディスプレイに向き直り「英語でも平気だよね?」と聞いてきた。


「この辺、一通り見てみて。わかんなければ聞いて。プログラミング言語は簡単なやつだけ教える。作りたいものが何かあれば上達速いんだけどな」

「教えてくれるんですか?」

「誠也が素質があるって言うなら、あるんだろ」

「……たぶん、私が邪魔をしてれば丈さんに何か刺激になるだろうとか、その程度のことじゃないかと。私さっきも社長に笑われたぐらい初心者ですから」

「何が言いたいの?」

問い詰めるわけでもない、丈さんらしい無表情な声で質問される。

何が言いたいんだろう。クビになりたいわけじゃない。でも、天才さんは期待するレベルも高そうだし、私そういう人の期待に応えるのはちょっとトラウマで。

説明できなくてあわあわしていたら、「やる?やらない?」と聞かれた。

「やる、やります」

とにかくやらなきゃクビなんでしょ。

「俺は誠也を信じるよ」

丈さんはそう言って自分の仕事に戻り、私には見るべき動画講義のリストとその要点を送ってくれた。

愛想はないけれど、意外と結構面倒見がよい。それに最後のはきっと私への励ましだった。



偉そうではあるんだけど、なんていうか、上から来ないよねこの人。とチラリと丈さんを見ながら考える。

「やれ」じゃなくて「やる?」とか言う。天才で偉い人だって、時々忘れそうになる。

昔好きだったのは社長みたいないかにも自信がある人だったけど、こういうタイプの静かな自信というのもあるんだと最近知った。

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