ビルに願いを。
3.早く家に帰れますように
それからの毎日は、勉強勉強また勉強だった。

紹介されたオンライン講義を見て、問題を解いていく。会社の行き帰りもほとんどずっとやっていて、一日中それで頭がいっぱい。

会社では教えられたコードを丸写ししたり、小さな仕組みを作って動かしてみたり。
クビになりたくなかったし、やり始めると意外と面白がっている自分も発見した。自分できちんと命令できれば、マシンからは素直に反応が返ってくる。



調子に乗って社内の人が書いたコードを見てみたら、やっぱり何が何だかわからない部分が多いけれど。

「何やってんの?」

隣の席から、丈に手元をのぞかれる。これが最近一番の変化。気が向くと話しかけてくるようになった、この人。

「少しはわかるかなって。でも全然」

「まだ無理だろうな……汚いな、何やってんだこれ」

私のPCを奪い取り、スクロールさせてコードを確認した後、「直しとく」と呟く。

もしかして今、気になっていたことを聞くチャンスだ。

「本当は書いた人が自分で直すんでしょう?」

「俺が書き直した方が速い。見ればどう直したかもわかる」

レビューの画面を見せて、修正前後の比較ができることを教えてくれる。

それは他の人にも見せてもらったことがあって知ってるの。でもそういうことじゃないよね、みんなが望んでるのは。

説得の仕方がわからないし、せっかくいい関係になりつつあるのに機嫌も損ねたくないし、今日は深く突っ込むのをやめておく。でも何とかしたいな、これ。


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