ビルに願いを。
それにしても、そんなに簡単にできちゃうものなんだ。天才だから?
あ、私が難しいコードを理解できなくてへこんでたから作ってくれるの? 作りたいものがあれば上達が速いとも言っていた。
仕方なく面倒を見てくれてるんだと思ってたけれど、意外と本気で教えてくれるつもりなのかもしれない。
帰り道、カツカツ響く靴音も自然と軽快になっている。だって、チームメイトとまでは行かなくても、少し人間として認められてきたかもしれないなって。頑張ろう。
見た目だけじゃなくて、中身も少しは気に入ってもらえますように。
何かの役に立てますように。
今日もB.C.に向けて気軽にお願いしておく。ジョーには近づくなって圭ちゃんには言われたけれど、意外といい人だよ?
好きにならなきゃいいんでしょ。ただの憧れだよ、この気持ちは。
私とは何もかもが違う遠い存在を間近で見て、ただ強烈に憧れるだけ。
翌朝オフィスに入ると、「ヘイ、アン!」と遠くのブースから顔を出しているエンジニアさんに呼ばれた。
急いで駆け寄ると、半円ブース内に窮屈そうに人が集まって何かやっていた。
珍しく丈もいる。というより真ん中で画面に向かっている。
「単純な仕組みだけど、同時処理に耐えられるか何人かで触ってもらえる?」
丈が昨日のあれを完成させたらしく、みんなに見せていた。
「OK。で、このゲームをクリアすると何がもらえるの、アン?」
「アンのプロジェクトなの?」
「ご褒美付きか、燃えるな!」
そうだ、ノリのいいチームだった。私が口を開く前にもうどんどん話が進んでしまう。賞品のほうがいいのかなぁと思いつつ、当初の案『丈が詳しくレビュー解説』を伝える。
「本当に?」
みんなの視線が丈に集まる。
「プロジェクトリーダーがそう言うならね」
興味の薄そうな答えにも、みんなが沸き立つ。すぐに自分のブースに着席すると、早速画面を呼び出してレビューのリクエストを探し始めた。
すごいご褒美効果。あたりなんだ、やはり。
噂はすぐに広まって、その午前中はエンジニアの多くが他人のコードをレビューしているようだった。
「5倍ポイント出た!」
「どういうアルゴリズムなんだ、それ見せてくれ!」
とブースの仕切りを超えて掛け合う声が聞こえる。珍しいな。