ビルに願いを。
その間に私は、丈から詳しく新しいツールの仕組みを教えてもらっていた。大当たりは、偶然でなくいいレビューをした時だけ出る。その判断基準にはまだ修正の余地があるんだって。
「すごい。1日でこんなに完璧に」
「完璧じゃない。ここから育てていくんだよ」
育てる? 機能を増やすって意味かな。ペットを育てるような気持ちでやってるんだなあこの人って、胸が暖かくなった。
「育てるって、いい言葉だね」
「見せてやろうか?」
丈の声がいつもと違う。社長に歯向かっている時のような挑戦的な声。生気が戻って来てる感じ。
永井社長、私もしかして少しこの人を揺さぶれましたか?
やがてレビューするコードがなくなったと言って、みんな自分の仕事に戻っていた。午後にはすっかりいつもの光景。ブースの中で少し声はするけど、基本的には静かな社内。
丈はどこにいったのかなと思っていたら、頭上から突然声が聞こえて来た。天井のスピーカー? どこから放送してるの?
「丈です。新しいツールの使用ありがとう。いくつか面白い提案をもらったから、仕事に余裕がある人は3時にプレゼンエリアに集合して。
ハッカソンを始めよう」
英語で言った後、日本語で繰り返す。1人二ヶ国語放送だ。
残念ながら日本語の方はほとんど聞こえなかった。エンジニアチームが「ハッカソン!」「イエー!」などと叫んだりハイタッチをしたりしていて、朝にも増して大騒ぎが始まっていたから。
「アン!やったわね!」
ノリノリチームの女性エンジニア、インド系のイラが飛びついて来た。
「ジョーのチームもできるかな。絶対そのチームに入ろうね」
「えーと、ハッカソンて、新しい機能を自由に短時間で開発するイベントなんですよね?」
「そうそう。社内でも時々やるって聞いてたのに一度もなくてがっかりしてたの。ジョーの発案なんて、ワクワクするよね!今夜は徹夜だ!」
どういうことになるのかさっぱりわからないけれど、楽しそうだ。
ハッキングマラソン、略してハッカソン。
マラソン並みの体力がいるからそう呼ばれているらしい。コンテスト形式でアイデアや技術を競うんだって。
ジョーがよく率いていたと、以前麻里子さんに聞いたよね。やる気になったというのは、きっといい傾向。