ビルに願いを。

丈相手に練習した通りに、なんとか説明を終えて力尽きた私をどかすと、丈がマイクを取り、期待に満ちたエンジニアさん達に向かい合う。

スクリーンに私のカラフルな落書きが映し出され、丈の似顔絵を見て笑い声があがった。

困惑する私を見て、丈は薄く笑ったようだった。

「説明の通り、今のところ単純な仕組み。エンジニアの不満を聞いて、コードレビューを活性化したいと考えたアンのプロジェクトを俺が手伝った。ツールとしては未熟だが、まだまだ面白くはできる」

いつも通り淡々とした丈の説明だけど、楽しんでいるのがわかる。周りの熱も上がっていく。

「美しく強いコードはフェニックスの心臓に当たる。最近人が増えてコードが乱れているのを、この機会になんとかしたい。力を貸してくれ」

ああ、やっぱり。エンジニアに対しても偉ぶらない。力を貸して、助けて。なかなか言えない言葉だよね。

尊敬を込めて、隣に立つこの人を見つめた。この場にいるみんなときっと同じ気持ちで。


「ハッカソンは24時間、明日の午後3時にここで各チームにプレゼンしてもらう。今から全員でアイデア出ししてから、好きにチームを組んでいい。質問ある?」

「賞品は?」

その期待に満ちた声の質問に丈が答える前に、声がたくさん飛ぶ。

「丈のチームに入れるっていうのは?」

「俺はアンのキスがいい!」

「1週間帰国させてくれ!」

最後のは胸が痛いだろうな、丈も。

「キス以外ならなんでもいいよ」

また特に興味がなさそうに、投げやりに言う。でも、おーっ、とどよめきが上がった。

太っ腹だね。社長でもないのに勝手にそんなこと言っていいのかな。

そういえば社長の姿が見えないけど、いないの? それは麻里子さんが慌てるわけだ。丈はわがままというか、マイペースで周りを気にしないから。


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