ビルに願いを。

次々と出されていくアイデアは、即時にすべて打ち込まれてプロジェクタで映しだされた。

面白そうなもの、複雑そうなもの、ただの受け狙いなども含めて、アイデアが出尽くすまで徹底的に出していく。

もう終わりと思われたタイミングで、1日でできそうなものを中心にチームを募る人たちが何人か出る。私は丈が参加したチームに金魚のフンよろしくくっついていった。



イラももちろんそこに入っていて、私に向かってウインクしてきた。

「ジョーがすごかったね、さっき」

とニコニコしている。プレゼンしたことかな。みんなは盛り上がっていたけれど、丈はいつも通りじゃない?

首をかしげると、イラは私の耳元で内緒話をするように囁いてくる。

「アンのキスは俺のものだから宣言だったね」

違うでしょ! 変な解釈やめてください! 賞品がキスなんて、そんなの全然意味ないからでしょ。

「キスどころか手も握られてないから」

「そうなの? 意外とシャイなのかなぁ。でもアンは丈を好きでしょ? そっちの彼から乗り換えちゃいなよ」

「違いますから!」

好きでもないし、指輪の相手は彼でもないし、もうとにかく仕事でしょ、今。

「だったら私もジョーを狙いに行っちゃうよ?」

え?そんなこと、本気なの? イラはエンジニアだから別にいいのかもしれないし、私がどうこう言うことじゃないけど。

「ほら、そんな顔するくせに!」

イラは「冗談よ。私、勝てるゲームしかしない主義なの」と笑い出した。

「ジョーに気に入られて仕事も一緒にできるなんて、どんな幸運かわかってる? チャンスは掴むもの。女の武器でもなんでもいいでしょ、実力なんて後からついてくるから」

イラはウインクすると行ってしまった。

女の武器。そういうのじゃないと思ったんだけど。頑張ってるから、置物じゃなくて中身もあるって少し見直されたかと思ったんだけど。

はたから見るとそうでもないのか。女を武器にして取り入ってるように見える? イラは意地悪で言ってるわけじゃないだけに、逆にちょっと胸に刺さった。


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