ビルに願いを。
この話を蒸し返すのは嫌みたいで、丈は目をそらして早口で言うと話題を変えた。

「でも面白かったよ、久しぶりのハッカソン」

「どうして急にやろうと思ったの?」

何気なく聞いたら横目で睨まれた。

「見せてやるって言ったよね?」

眠いと言っていた割に、目に光が宿っている。

「最初の思いつきなんていつも単純なんだよ。もし俺が天才なんだったら、杏もそう。誰かのための仕組みを思いついて、形にする。それから人を巻き込こんで育てていく。その繰り返しなだけ」

「私は絵を描いただけで、形にはできてないでしょ?」

「エンジニアの話を毎日聞いてた。解決方法を考えた。言葉じゃなく俺にもわかる形で見せた。まずはそれで十分」

丈にきっぱりと言われると、本当に自分も何かをやったんだという気がしてくる。



「俺の母親にいい仕事がなくて、見つけやすくしようとしたんだ。それが始まり。俺が最初の形を作って、誠也たちが一緒に育ててくれた。俺はさ、自分で書くだけじゃなくて人を巻き込むのも仕事なんだって、思い出したよ」

こんな風に長く自分の話をしてくれることなんて今までなかった。

徹夜明けの疲れで気が緩んでいるのか、本当に何か思い出して変わりつつあるのか。

「ありがとう」

口の端で微笑んで、私の前髪をかきあげるように優しくなでる。

触られたことよりもその自然な動きに驚いていたら、そのままぽんと叩く動きに変えて丈は立ち上がった。



思い出した。

さっき寝起きにも髪をなでていた。あれは圭ちゃんの夢じゃなくて、丈だったんだ。

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