ビルに願いを。
麻理子さんが一緒に外に出て来てくれた。でも態度の悪さを叱られるのかも。
一瞬カッとなってなんだかわからなくなっちゃって。家族なのにってわかった途端、感情的になってる自分には気づいてるけど。
「杏ちゃん、あなた本当にすごいと思ってる。でもこれは、一時的なことだというのはわかっていてね。ジョーはやがて向こうに帰るだろうし、フェニックスではあなたをエンジニアとしては雇えないと思うの」
麻里子さんは気遣うように、でもはっきりと私にわかるように言ってくれる。
この人のこういう姿勢が好き。表向きじゃない本音で話してくれる。
「気を悪くしないでね。あなたが高卒とはいえ進学校出身で努力家なこともわかってる。でもうちのエンジニアは特別なの。住む世界が違うのよ、わかるでしょ?」
「はい。わかってます」
「薬指の指輪。それも決め手だったのよ。ステディな彼がいる。そういう子ならジョーのそばに置いても安 心だろうって」
そうなんだ。それは初耳。私がどうだろうと丈にはケイティがいるのに。彼女に似てるから置いておきたいだけなんだって。
指輪をくれた圭ちゃんとはそう言う関係ではないんだけれど、そう思っててもらったほうがいいみたい。
セレブとの恋とか、妙なことを考えなさそうと言うことだ。最初にも言われたもんね。わかってる。
その時、脈絡もなくひらめいたことを口にしていた。
「麻里子さん、エンジニアさん達も連れ出して遠足しませんか?」
麻里子さんが突然何を言い出すのかと首を傾げる。
前の会社では社員旅行があった。何日も行くのは無理でも、1日イベントならここでもできる気がする。
「丈がみんなと仲良くなって、しかも外に出て行くって言ったら、遠足かなって」
「遠足ねぇ……よくわからないけれど、任せるわ。スタッフがサポートするから、なるべく早めにいろいろ頼って。今のあなたは、私達にとってお客様だから」
そうか、本音だけに軽く傷つく。最初は仲間だったのに、今はお客様。そして、役に立たなくなったら出て行かなくちゃいけない。
当たり前か。麻里子さんが私によくしてくれるのは仕事のため。
何の役に立たなくてもいいと言ってくれたのは圭ちゃんだけ。家族だからだと、そう言ってくれた。