ビルに願いを。

「あの、毛布が落ちそうだったからかけ直そうと思っただけで、下心があったわけでは」

言い訳してみても、答えはなくじっと観察される。怖いよ、この人。

「……ああ、東京か。誠也が来たら、起こしてって言ってくれる?」

それだけ言うと、イケメンさんは返事を聞かずにまた眠ってしまった。

マイペースですね! こっちは色っぽく抱き寄せられたと思ったら無言で睨まれて、朝から心拍数が上がったよ!



今度こそ起こさないようにそっと毛布を掛けながら、やっぱり見覚えがないなと思う。優しそうなきれいな顔に似合わない厳しい目つき。

印象に残る顔だ、一度見ていたら。



誠也って言うのは、きっと社長さんのこと。社長または永井さんって日本人には呼ばれているけれど、外国人だとセイヤって呼び捨てしてるのも聞いた覚えがある。

あれ? だとするとあの人は日本人じゃなくて日系アメリカ人とか帰国子女かな?

歩きながら考えてみる。まあいいや。そんなに大きな会社じゃないし、そのうち覚えられるだろう。


とにかくみんなが来る前に、東京タワーがよく見えるあの場所に行っちゃおう。噂の天才エンジニア、ジョーさん専用ブース。でも席にいるのをまだ見たことがない。



記憶を辿りながら、やっと窓際の広いブースについた。ゆったりと大きいオフィス机が2台入っているけれど1台しか使われていない。空いている机の真横が窓。

わー、やっぱり、東京タワーが近い!

遠くからでも下からでもなく、割と近くで全体像を見られるこの景色は貴重じゃない?

本当に信じられない、ともう一度うっとりとため息をついてから、スタッフ席に戻ることにした。

よーし、働くぞ!
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